屋根裏の物音。その正体は「特定外来生物」?
「この頃、夜になると屋根裏で物音がする」「ベランダに気配を感じる」という話を耳にすると、時節柄、「もしかして怪談?」と思ってしまう人もいるかと思います。周囲が寝静まった真夜中、得体のしれないものが家の内外でうろうろしていたら、確かに気持ち悪いですよね。
さて、その怪しい物音ですが、一体何だと思いますか。幽霊? 妖怪? それでは正体を暴いていきましょう。
まさかこんなところに……動物園でしか見たことのない生き物が
時には屋根裏、時にはベランダ、深夜(時には日中)にマイホームを徘徊する怪しいものの正体は、どうやらすばしこい小型の動物。うちでは猫を飼っていないし、ネズミにしては大きいし……よく見ると、動物園かテレビで目にしたことのあるような……。
そう、家の中を暴れまわっていたのは「アライグマ」。アライグマといえば、アメリカの小説をアニメ化した作品で知られた存在、また動物園で見る生き物で、「まさか人の住む街に出没するなんて」と思う人もきっと多いでしょう。
「でも、アライグマって可愛い動物だから問題ないのでは?」という声も聞こえてきそうですが、実はアニメのイメージとは性質がかなり違います。子供の頃は人に懐くので、それほど問題はありません。しかし、大人になると性格が一変。とても凶暴になるため注意が必要な動物とされています。
もともと北米産の動物であるにアライグマが、どうして日本に住み着いたのでしょうか。その原因のひとつは、先述したアニメの影響で、アライグマがペットとして日本に持ち込まれたことにあります。成獣となったアライグマは気が荒いので、結局、持て余した飼い主が山などに捨てた、逃げ出した個体が野生化し、農作物を荒らしたり、タヌキなど在来野生動物の生態を脅かす存在になってしまいました。そのためアライグマは「特定外来生物」の指定(2005年)を受け、日本各地の自治体で駆除活動が行われています(は輸入や飼育も禁止です)。
アライグマが人や家屋に与えるダメージ
アライグマは家屋だけでなく、農作物や人にも被害を与えることがあります。主な被害は以下の通りです。
〔農作物や家庭菜園を荒らす〕
大好物のスイカなどの皮に穴を開け、トウモロコシの皮をむくなどして農作物を食べてしまう。また雑食性であるため、このほかにメロン、イチゴなどの野菜・果樹、さらに家畜飼料などにも被害を与える。中には鶏などの家畜、養魚場の魚を襲うケースもある。
〔在来種への生態系被害〕
北海道のニホンザリガニやエゾサンショウウオの捕食が確認されており、神奈川県ではトウキョウサンショウウオへの加害が懸念されている。
〔ペットへの被害〕
イヌ、ネコ、コイなどのペットを襲ったり、ペットの餌を横取りする。
〔家屋などへの被害〕
家屋の屋根裏や廃屋に侵入して住み着き、フンによる悪臭や衛生面の悪化を引き起こす。また屋根裏を動きまわる際に騒音を発する。さらに営巣したアライグマによる住宅の破損が懸念され、鎌倉や京都などでは、神社仏閣などの歴史的建造物や文化財の破壊が大きな問題になっている。
〔人間を襲う〕
アライグマの成獣は人にはほとんど懐かない。そのため無理に触ろうとすると噛みつかれたり、引っかかれたりして、大怪我をする可能性が少なくない。
〔感染症などの被害〕
原産国では、アライグマに噛まれた、引っかかれたことなどが原因で、ウイルスの媒介による「狂犬病」、「アライグマ回虫」によって起こる幼虫移行症が知られている。日本において狂犬病の発生はないが、飼育個体にアライグマ回虫、野生種に人間の皮膚病の原因となる「アライグマ糞線虫」発見されている。
アライグマ媒介の病気が発生したという報告はないようですが、もし、アライグマに噛まれたり、引っかかれたりした場合は、すぐに病院で診断を受けるようにしたほうがいでしょう。
アライグマや害獣が家の周辺に現れ、家に入り込んでしまったら
もし、近隣でアライグマを見かけた、家に入り込まれたときはどうすればいいのでしょうか。アライグマは「特定外来生物」に指定されているため、捕獲・駆除対象になっています。ですから足跡や農作物の被害、アライグマの姿を見かけたら、地元の市町村の担当窓口に連絡しましょう。専門の害獣駆除会社を利用することも可能です。
「うちは人の多い住宅街だから大丈夫」だと考えている人も少なくないようですが、2006(平成18)年の調査では全国36 都道府県に分布。2010年(平成22)年の捕獲数は約2 万5 千頭となっています。そのため油断をせず、たとえば「農作物の未収穫物、や落果実などを放置しない」「残ったペットの餌をそのままにしない」「ゴミ集積場にはネットをかける」といったアライグマ被害の予防をしておくことも必要です。
また家に入り込まれないため、軒下や戸袋、基礎などに隙間や穴がないかを確認しておきましょう。庭周辺を対策ネットで囲う、箱わななどをしかけるのも効果的。また、家屋にアライグマが浸入できそうな瑕疵を見つけた場合は、家自体のリフォームを考えるのもおすすめです。