進学や就職、転勤などで新しい住まいをお探しの方も多くなる季節。そうした中、賃貸住宅市場で「フリーレント」が徐々に見受けられるようになりました。

フリーレントとは？

新年度を前に新しいお部屋を探している方も多いと思います。いい物件から先に借り手が決まってしまうため、早めに契約をする人もいますが、それだけ早く家賃が発生してしまいます。また、引越することを決めても事前にいろいろな準備を計画通りにするのはなかなか難しく、引越自体にもお金がかかります。加えて敷金や礼金、仲介手数料など不動産特有の出費もかさみ悩ましいところ。そうした賃貸住宅市場にあって、「フリーレント」が増えてきています。

フリーレントは、入居後の1ヶ月から3ヶ月といった一定の期間、家賃を無料にするもので、欧米でも“one month free”などと表示して入居者を募集している光景が見られます。
オフィスや店舗では比較的古くからある契約形態でしたが、最近は居住用の賃貸物件でも見受けられるようになりました。中には6ヶ月間家賃が無料になるというケースも見受けられます。

フリーレントが増えてきた背景には賃貸住宅の空室の増加やその長期化ということがあります。「貸せば埋まる
というのはかつてのことで、今や借り手市場。空室対策として家賃を引き下げたり、敷金・礼金の減額もしくは免除といったこともありますが、既存入居者との不公平感から値下げ要求が生じるといった理由でなかなか実行には至らない場合があります。そのため、賃料自体は下げることなく入居者を確保できる方法としてフリーレントが活用されるようになりました。これは不動産投資という観点からも理にかなっています。投資物件の場合、利回りが重要です。不動産投資の利回りは年間賃料を物件の価格で割って求めますが、利回りを重視した場合、毎月の賃料そのものはなるべく下げず、そのかわりフリーレントの期間が多少あってもいいいという考え方になるのです。

空室を埋められるのが賃貸物件のオーナーにとってメリットですが、借り手にとっても一定期間の家賃がタダになるのですからもちろんメリット。何かと出費が増える引越し直後に、家賃分が浮くのは助かります。さらに言えば仲介手数料も家賃をもとに算出されるので、仲介する不動産業者にとっても、家賃を下げるよりフリーレントの方が有利なのです。

デメリットにも注意

フリーレントといっても、その期間まったくのタダで住めるというわけではありません。フリーレントの場合でも管理費や共益費は必要な場合が一般的です。さらにフリーレントの場合、賃貸契約を更新して長期間住み続けた場合、逆に割高になってしまう場合が多いことにも注意しましょう。その仕組みは次の通りです。

一般的にフリーレントを採用する場合、フリーレント期間が終了してから通常通り支払う家賃は高めに設定されている場合が多くあります。例えばもともとの家賃が10万円でフリーレント1ヶ月で契約する場合を考えてみましょう。10万円で一年間借りる場合の年間家賃収入は120万円、このうち1ヶ月分を無料にするので、貸主が120万円を残りの11ヶ月で回収しようと思ったら120万円÷11ヶ月で約109千円を月々の家賃として設定するとします。この109千円でその後何年も借り続けるとしたらトータルとしては借主のメリットはなくなってしまう場合もあるわけです。

タダほど高いものはない？

さらに借り手にとってフリーレントでもっとも注意すべきは違約金です。フリーレントの場合、一定期間の家賃が無料になる代わりに、中途解約が制限されている場合が多いのです。
通常の賃貸借契約では、入居者からの中途解約は事前に通知すれば認められる特約が設けられています。しかし、フリーレントで賃貸契約を結んだほとんどの場合、半年や1～2年など一定期間は解約することができず、解約する場合は違約金を支払う条項を盛り込まれるのが一般的です。貸主から見れば無料の期間住んだだけで出てしまわれたら困りもの。そうした不都合を事前に防ぐための措置なのです。違約金はフリーレントの期間×月々の家賃としていることが多いようです。フリーレントで入居した場合でもやむを得ない事情で急に契約期間内に退去しなければならないこともあるかもしれません。この違約金はフリーレントにおける借り手側の最大のデメリットです。結局“タダほど高いものはない”ということにもなりかねませんので、契約の際は入居後のことも考え慎重に検討するようにしましょう。



フリーレントの物件をご検討の方は、「無料」という言葉に左右されることなく、その後の住まいのプランや、契約期間の支払い総額、月当たりの家賃など総合的に考えて契約に臨むべきです。自己のニーズを考えうまく利用すればフリーレントは合理的な方法です。新年度から新しいお部屋をお探しの方も対象となる物件がありましたら一度ご検討ください。