「標準引越運送約款」で、引越し時に起こりやすいトラブルを回避







引越しをする際、「とにかく価格が手頃な事業者」を探してしまう方は多いと思います。このところの物価上昇も手伝って、「少しでも節約したい」のは当然のことです。ただ、頻繁に利用するわけではありませんから、引越しするまで、事業者の価格相場やサービス内容を知らなかったというケースも少なくないでしょう。



前回は、基本的な「引越し料金(基準運賃(基本運賃)・実費・附帯サービス)」の内容、引越しの基本ルールとされる「標準引越運送約款」について紹介しました。
なお、「標準引越運送約款」は引越し時だけでなく、荷物を解いた後も適用されるものです。



そこで今回は、標準引越運送約款を基に、引越し全般で起こり得るトラブルを回避し、スムーズに転居できる方法を考えていくことにしましょう。




荷物の破損・紛失、家屋(部屋)に傷が生じてしまったら?




引越しする時、一番気になるのは荷物が壊れたり(傷ついたり)、紛失したり、また、家屋や部屋に傷がつくことではないでしょうか。新居に着いて、もし、そのようなトラブルを見つけた場合、事業者に対して損害賠償を請求できるのか否かは気になるところです。



引越しで生じた荷物の破損や紛失、家屋(部屋)の傷については、「標準引越運送約款」において、「作業員が荷物の破損・紛失、家屋を傷つけた場合、保管や運送などに関し、注意を怠らなかったことを証明できない限り、引越し会社は損害賠償の責任を負う」と規定されています。ただ、運送上、特別に注意が必要な荷物(壊れやすい、傷つきやすいなどの性質を持つもの)を依頼者が申告せず、作業員がその存在を知らなかった時などは、破損や紛失が生じても事業者は責任を問われないという規定もあります。なお、次のようなケースも補償の対象外となります。



・不可抗力による火災などが起こった場合



・事故や災害による渋滞ほか、予見できない交通障害



・地震や津波、台風をはじめ、洪水、暴風雨、山崩れ、地滑りといった自然災害の発生



・依頼者の故意、または過失によるトラブル ほか



ここで注意したいのが、荷物の破損や紛失等について、荷物の引き渡し日から3ヶ月以内に通知しなければ、引越し事業者への損害賠償責任は請求できないという点です。たとえば、今すぐに使わない荷物(扇風機、スキー・スノーボード板といった季節製品、季節外れの衣服など)をそのままにしておき、後から開封したところキズや破損を発見。すでに3ヵ月を過ぎていたため、保障してもらえなかったというトラブルをよく耳にします。ただし、事業者が損害を知っていて、依頼者に荷物を引き渡した場合は、3ヶ月を経過してもこの条項は適用されません。ですから、新居に荷物を運んだ後は、早めに梱包を解き、荷物の状態を確認しておくことが大切です。なお、荷物の滅失・棄損等の損害賠償責任は、依頼者が荷物を受け取った日から1年を過ぎると時効により消滅します。こちらも事業者が荷物の損害を依頼者に告げなかった場合、時効は認められません。



引越しの前は何かと忙しく、時間も取りにくいとは思いますが、「標準引越運送約款」はしっかり読んで理解しておくといいでしょう。



「標準引越運送約款」は家屋や部屋にも対応




「標準引越運送約款」は、引越し荷物はもちろん、家屋や部屋の疵や破損などについても適用されます。先にも説明したように、引越し作業により、家屋(部屋)の床や壁が傷つけられた場合、事業者が落ち度のないことを証明できなければ、損害賠償を求めることが可能です。ただし、原則的には、修理・修復などによる現状復旧範囲内の対応となっています。



できれば何ごともなく、無事に引越しできればいいのですが、思いがけないトラブルが起こる可能性も考えられます。これらを回避する方法を調べてみました。



◇トラブル回避のため、引越し前にしておきたいこと、引越し後に確認しておきたいこと

・貴重品や壊れやすいものを梱包する際は、梱包材、新聞紙など使ってしっかり包む



・梱包した荷物、段ボールには、何が入っているかを明記しておく。貴重品・危険物、壊れやすいものには特に気をつける



・パソコンやタブレットほか、衝撃などにより、データ破損が起こり得る機器類に対しては必ずバックアップを取っておく



・引越しによってついた傷であるか否かを証明できるように、インテリア品(陶器やガラス製品)・食器・家具など、壊れやすくキズが気になる品物、部屋や家屋の壁・床、建具ほかについては、作業前の様子・状態を写真やメモで記録。



・作業後は、移動前に室内や家屋の状況をチェック。問題がなければ引越しを行い、荷物の搬入後、紛失や破損、テレビやエアコン、パソコンといった家電製品・精密機器の動作を速やかに確認する



・もし、破損や紛失が確認された場合は、早急に事業者に連絡を入れる



なお、「引越しトラブルの通知は、引き渡し日から3ヶ月以内」となっていますが、作業日から時間が経つと、原因が作業によるものかどうか、わからなくなるケースがあります。ですから、引越し後の荷物チェックは、早めにすることをおすすめします。