「埋蔵文化財発掘」にまつわる不思議な話







先日、知り合いの編集者さんと話す機会がありました。古墳時代がテーマの歴史書籍を作っているそうで、近いうちに発売されるとのこと。内容など、本についての雑談をしていたところ、編集者さんがいきなり、「日本全国に古墳がどのくらいあるか、知っていますか?」と聞いてきたのです。



学校でひととおり日本史を学んだとはいえ、「日本における古墳数」は、どう考えても範疇外。いわゆる古代史の分野です。「そんな専門的なこと、わかるわけないじゃないですか」と答えると、編集者さんは「そうですよね~」と苦笑い。そして「実はですね、日本に古墳って、16万基(文化庁の調査による。古墳時代には20万基以上造られたという説もあり)あるんですって」と続けたのです。

「16万基!?」。私は思わずオウム返しをしてしまいました。

「この数字、全国にあるコンビニエンスストアの約3倍です」という編集者さんの言葉。全国津々浦々、いたるところで見かけるコンビニより、古墳の方が多いなんて……にわかに信じられません。

「自分も驚きましたけど、同時に心配になってきたんですよ……」。それまでと異なり、いきなりシリアスな顔をする編集者さんに、そのわけを聞いてみると……。




神聖な場所を発掘すると、何かが起こる?



「このことを知ってから、もしかして自分の住むエリアも古墳だったのではと考えるようになってしまって……」。どうやら編集者さんは、自分が古墳の上、または古墳があった場所で生活しているのではと気になっているようです。今や古墳は世界遺産(「百舌鳥・古市古墳群(大阪府)」)に登録されるなど、多くの観光客が訪れる名所旧跡になっています。しかし、もとをただせば「お墓」。「その上に住んでいるかもしれない」と言われてみれば、ちょっと心配になってきます。

編集者さんと同じような不安を抱いている人は少なくないようです。中には「遺跡などの発掘現場跡、または近隣に住むのは良くないのでは?」「発掘調査員など、発掘にかかわった人に変なことが起こったと聞きましたが本当ですか?」といった質問が、埋蔵文化財関連サイトに寄せられることもあるといいます。

発掘調査をしたことで、怪異に見舞われた例としては、エジプトのツタンカーメン王墓の話が有名です。1922年、イギリスの考古学者、ハワード・カーター(1874年~1939年)は、ほとんど無傷のままだったツタンカーメン王(古代エジプト第18王朝・12代目の王(在位前1363年頃~前1354年頃)の墓を発見。「世紀の発見」と称賛され、全世界の注目を集めます。しかし、カーターを資金面で援助していた貴族でイギリスの政治家、カーナボン卿(ジョージ・ハーバート。1866年~1923年)が数か月後に急死。さらに発掘調査にかかわった人たちが、相次いで怪死すると、周囲からは「ツタンカーメン王の王墓を発掘したからではないか?」という声が上がり始めました。というのも、王墓の入り口には「(古代エジプトの)王の眠りを妨げる者には、死の翼が触れるべし(必ず死が訪れる)」という言葉が刻まれていたからなのです。

カーナボン卿の死因は、蚊に刺された痕を傷つけたことによる敗血症でした。また、亡くなった人たちは、「遺跡に残っていた毒性のあるガスやカビを吸ったのではないか」という噂も流れます。シャーロック・ホームズで知られる作家、アーサー・コナン・ドイルも同様に「盗掘者を防ぐために、意図的に致死性のあるカビか何かが仕掛けられていたかも?」と考えていたそうです。ただ、カーターは「噂は作り話」だとし、呪いを信じていませんでした。

現在の科学においても、墳墓内に有毒なガス、カビの存在は確認されておらず、関係者の死因と発掘調査との因果関係はないものとされています。





埋蔵文化財をめぐる「都市伝説」



墳墓にまつわる不可思議な噂は、もちろん日本にも存在します。たとえば、「畑(家、田んぼなどもあり)を作ると祟りがある」「古墳周辺で見つけた土器(かけらなどを含む)などの遺物を持って帰ってはいけない」という話は全国にあるようです。ただ、調べてみたところ、発掘調査前にお祓いをしたという遺跡(たたりが理由ではないようです)も存在しますが、日々発掘にかかわる方たちは、呪いやたたりのようなことはあまり気にされないとのこと。とはいえ、編集者さんや私たち一般人がそういう話を聞くと、どうしても「埋葬された人の呪い」と考えてしまいがち。

一般的に墳墓を掘り返すのは不謹慎かつ罰当たりな行為ですが、発掘調査の目的は宝探しではなく、開発など、様ざまな理由で遺跡が失われてしまう前に、記録しておくためであるということです。また、発掘調査を行ったことで国宝級の遺物が出土したり、貴重な遺跡だと認定され、宅地予定地が公園や博物館になることも少なくありません。

なお、何も起こっていないのに、「呪いの遺跡」だと書籍やネットに掲載されていたという話も耳にします。たとえば、「市民は発掘を反対していた」といった噂があり、現場で誰かが偶然ケガをすると、それが独り歩きをして、「遺跡を掘ったたたり」だなどの都市伝説になってしまうのです。もちろん現場で働いていた人は、みんな元気でケガなどしていません。