「サスティナブル」な暮らしから生まれたミステリアス物件?







前回は、イギリスの中古物件事情についてご紹介しました。古い建物に価値を見出し、当たり前のように住んでいる背景には、「家は長く使うもの」「(リフォームなどで)景観や環境を損ねない」という基本的な考え、文化風土が根付いているからなのです。





中古物件の人気を左右する理由、実はこれだけではありません。イギリスでは、「目に見えない存在」も住宅選びのファクターになっているのです。日本では考えられない、ミステリアスな物件を好むイギリスの人たち……信じるか信じないかは、あなた次第です!?



遭遇できなくても伝統の証。家賃が高くなっても当たり前?



イギリスでは古い時代の部屋や家屋が好まれ、築100年以上という物件が珍重されることもあります。新築よりも価格や家賃が高く、このような物件に住むことは、ステイタスにもなっているようです。前回、イギリスにおいて、中古物件が人気を集める理由をお話ししましたが、その中でも「歴史的価値がある」ことは、大きな魅力なのだそう。18世紀~20世紀初期、イギリス王朝の様式美を思わせる装飾が施され、当時を偲ばせる暖炉や調度品などが残る物件は人びとの心をとらえるのだといいます。

また、イギリスでは街の景観を大事にしており、新築、リフォームやリノベーション(内観・外観共に)をする場合、厳しい建築制限が設けられています。1世紀以上前の街並みを、今でも目にすることができるのはそのためです。

このように自然と培われてきた「サスティナブル精神」は、イギリスの不動産事情に影響を与えていますが、実のところ、中古物件に「歴史的価値」を付加しているのは、建築や家具、街の景観だけではありません。それは、住まいを探す者よりも先に、家屋や部屋で暮らしている存在……ゴースト(幽霊)なのです。

常識的に考えれば、ゴーストのいる部屋なんて、絶対にお断りしたい物件。しかし、イギリスの不動産屋に行くと、「ゴーストが出ます(居ます)」と書かれた売買や賃貸の広告があるのだそうです。さらにゴースト物件は、価格も賃貸料も通常以上に高いらしいのですが、それでも入居希望者が続出するとのこと。なお、ゴーストが出る物件は家屋や部屋だけではなく、大型のビル、なんと村丸ごとというケースもあり、これらも売り出せば問い合わせがくるといいます。

信じられないような物件が人びとを惹きつけるのは、ゴーストの出る(居る)古い住宅や部屋には、何代にもわたって紡がれてきた生活、住人たちの息吹を感じられるから。それらはひとつの「歴史」であり、さらに実話に基づくエピソード(たとえば「ゴーストは部屋の住民だった」「有名人が暮らしていた」など)といった裏付けが付加されれば、物件に箔が付くというわけなのです。

ただ、歴史云々以前に、イギリスの人たちは好奇心旺盛で「お化け好き」だということも、ゴースト物件人気に拍車をかけているといいます。




名所や旧跡、いきつけのパブにもゴーストのいる環境



イギリス人は、あまりゴーストやモンスターの類を怖がらないといわれています。というのも、中古物件はもちろん、国内各地にゴーストが出没する名所(?)が数多くあるからかもしれません。それは観光地や名所旧跡でも例外ではなく、たとえば、王妃の幽霊が徘徊するという「ロンドン塔」や「ハンプトン・コート宮殿」をはじめ、美術館や城、駅、劇場、古いパブやレストラン、ロンドンの高級老舗ホテル「ランガム・ロンドン」などには、今でもゴーストが住んでいるようです。

幽霊が住む建物~いわゆる幽霊屋敷・幽霊物件のことを英語で「ホーンテッドマンション(「ホーンテッドハウス」とも)」と呼びますが、イギリスではこれらを巡るツアーも行われています。わざわざ怖いところへ行かなくても(お金をかけてまで)……と思いますが、「幽霊は、その家の伝統の証である」と、自宅に幽霊が出ることを自慢する人もいるくらいですから、イギリス人にとって、本当に身近な存在なのでしょう。

また、イギリスのゴーストたちには「正体を知られている」という特徴があり、名所に出没する歴史上の人物も少なくありません。一般物件に住むものたちであっても、「亡くなった理由」「どうして住み着いているのか」といった理由が、だいたいわかっているといいます。たとえば、正体不明のゴーストといきなり遭遇したら、パニックを起こしそうですが、相手のプロフィール(?)を知っていれば、何とかコミュニケーションをとって、お帰り願えるかもしれませんね。





お化け好きで好奇心旺盛なイギリス人気質




イギリス人には好奇心旺盛な気質があり、お化けを怖がる前に、「存在するなら見てみたい」という気持ちが働くのだといいます。ゴーストを真面目に研究する人物も現れ、1882年には、古典文学者であり詩人のフレデリック・ウィリアム・ヘンリー・マイヤース(1843年~1901年。心霊研究の開拓者として有名)らが「心霊現象研究協会(SPR)」という組織を設立。なお、1885年には、アメリカ合衆国にも「米国心霊現象研究協会」が設立され、1890年、先述心霊現象研究協会の支部になっています。本組織の支持者は、アメリカ合衆国の著作家・小説家作家のマーク・トウェインをはじめ、イギリスの数学者・作家・詩人のルイス・キャロル、スイスの精神科医・心理学者のカール・ユング、超心理学と呼ばれるジョゼフ・バンクス・ラインといった、世界中の錚々たる有名・著名人など。『シャーロック・ホームズ』シリーズの作者、アーサー・コナン・ドイルも支持者のひとりで、彼は晩年、心霊研究に没頭しており、それらは「コナン・ドイルの心霊学」で読むことができます。

ちなみにホームズ作品(「四つの署名」「ボヘミアの醜聞」「レディー・フランシス・カーファックスの失踪」)には、先述した「ランガム・ホテル」が登場。また、マーク・トウェイン、幽霊話が好きだったというナポレオン3世(1808年~1873年。フランス第一帝政の皇帝、ナポレオン・ボナパルトの甥。フランス第二共和政の大統領。第二帝政の皇帝)も、イギリス亡命中に宿泊していたそうです。

なんとナポレオン3世は、現在ランガム・ホテルに出没するゴーストのひとりに数えられているとのこと。このホテルに足繁く通い、仕事の打ち合わせもラウンジ「パームコート」で行っていたドイルだけに、彼はナポレオン3世の霊に遭遇していたかもしれません?

家屋は長く、大切に使うもの~サスティナブル志向が生んだ、様ざまなミステリアス・エピソード。歴史にまつわるゴーストたちが、今も住むイギリスの名所旧跡へ、新型コロナが落ち着いたら行ってみたくなりました。